2019年春、チームメンバーの「心の灯り」(ワコムで働く意味)を出発点にコミュニケーションを始めたSocial Initiatives。「ワコムの存在意義とは?」という大きな問いを胸に、チームメンバーそれぞれの問いを重ねながら、取り組みを進めています。
取り組み開始から5年。数値的指標の達成を目指すわけではないSocial Initiativesは、わかりにくさと隣り合わせながら、ひたすらに取り組みを積み重ねてきました。できたこともできなかったことも、わかったこともわからなかったことも。伝えられたことも伝えられていないことも。Social InitiativesのこれからをワコムのMeaningful Growth(意味深い成長)につなげるため、CEOの井出とともに5年間の活動を振り返ります。
(聞き手:天野美樹/Social Initiatives担当)
Social Initiativesにとっての「成果」とは一体何なのか
天野:この5年間、チームメンバーのさまざまな心の灯りを発信してきました。私自身、感動する多くの瞬間に出会っていますが、会社の取り組みとしての成果を問われると、答えに迷うところがあります。井出さんはこの5年間をどのように振り返りますか?
井出: 「成果」というと難しいのですが、やってきたことのひとつひとつに意味があると思っています。ワコムの挑戦のひとつにMeaningful Growth(意味深い成長)があり、Social Initiativesでは、どうやってワコムが社会に関わっていくかという問いに向き合って活動を続けています。その問いに正解やゴールはなく、ただひたすらに取り組みを積み重ねてきた5年間だったと思います。今もまだ流れる川の途中にいるというのが正直なところです。
ワコムの役割は、大きな建造物を作り上げることではなく、小さな連鎖のきっかけを少しだけ作って、置いてくることだと考えています。連鎖とは、点在していて、時になくなったり、再び存在したりする動的なものです。その流れに委ねて、連鎖がつながっていく先にSocial Initiativesがあります。これまでもこれからも、ワコムとして渦を作ってきた/作っていくという思いがありますが、引きで見た時には僕たち自身も渦の中をゆっくり循環しているというのが、ワコムとしてのSocial Initiativesの姿だと考えています。
わかりやすい目標達成や課題解決を目的としないSocial Initiativesは何を目指すのか
天野: 会社の取り組みとして、わかりやすい目標や課題解決を目指すことをワコムは選びませんでした。世の中が変化を続けるなか、私たちが取り組む目標や課題も変わっていくべきなのではという問いが始まりだったかと思います。一般的な企業の取り組みとはおそらく異なるSocial Initiativesの方向性について、私を含め、チームメンバーの中には、なんとなく理解はできるけれども、説明が難しいという思いがあるように感じます。
井出:わかりにくくしているわけではないのですが、社会に関わるということは決められたフレームワークでやることではないと考えています。もっとずっと現実的で、本質で、自分たちに納得感がある取り組みでなければなりません。僕たちが大義によって動いているわけでないということは重要で、常にワコムを起点に、ワコムだからできることを一緒に考えていきたいと思っています。
ワコムのものづくりにもいえるのですが、ものを作って売るということは常に矛盾をはらんでいます。最高の技術を作り出しているという自負がありますが、対価を最大化するためのアノニマス(不特定多数)に向けた技術であると捉えることもできます。一方、アノニマスは無数のミクロ(個)の積み重ねであって、ワコムはミクロの関係性を無数に作りだすために、まだ見ぬ誰かへ道具を送りだしていると言えます。効率は悪いのですが、最短の距離ではないところに意味があり、会社の成長の過程で、僕たちはミクロの連鎖を見ていきたいと考えています。その文脈で、Social Initiativesが原点とするチームメンバーの心の灯りに寄り添うということは、なぜワコムが存在するのか?という根源的な問いに深くつながっているのです。
一人ひとりの「心の灯り」が大切なわけ
天野:Social Initiativesを支えるチームメンバーの「心の灯り」という言葉は、「なんだかわからなけれど、たしかにそこにあるもの」として、5年前に発信し始めました。あらためて、Social Initiativesにとって心の灯りとはどのような存在なのでしょうか?
井出:「心の灯り」というアプローチについて、自分には関係ないと思う層の方が多いかもしれません。明確な定義はないのですが、それぞれの思いがゆるやかに循環していて、それがワコムをかたどっているようなイメージがあります。個々の日常がそこにはあり、それがSocial Initiativesの心の灯りにつながっていると思います。
言葉にすると当然のようなのですが、チームメンバーの一人ひとりに全く異なる日常があります。多様なミクロの集合体が、近づいたり、離れたり、面白かったり、面白くなかったりしながら、ひとつの生命体となって、ワコムとなっていると思うんです。ワコムと社会との関わりを考えていく上で、現実の中でもがきながら、もっと人間ならではの心が震えるような体験や物語を価値にしていきたいと考えています。それを支えてくれているのがみなさんの心の灯りだと考えています。
これまでの問いから浮かび上がるSocial Initiativesの現在地
天野: ワコムの存在意義という大きな問いから、地域やコミュニティーのために何ができるのかという具体的な問いまで、これまで数々の問いを立ててきました。問いがSocial Initiativesにもたらすものとは何なのでしょうか?
井出: これまでの問いは全部つながっていて、問いかけの仕組みとして大切にしているのは、明確な正解やゴールがないということです。ワコムの問いを体現する場として、コネクテッド・インクがありますが、2024年のテーマを「日常」としました。ワコムの約束、ライフロング・インクは日常の積み重ねだと考えているからです。それぞれの人たちの日常の中では、ワコムのテクノロジーも主人公になりえると考えています。ワコムが世界を変えていくのだということではなくて、日常に溶けていくような存在としてワコムがいるというイメージです。それが一体どういうことなのかをみなさんと考えていきたいと思っています。問いは完成しているわけではなく、ワコムとしても、Social Initiativesにとっても、現在地や通過点を確認するためにあると考えています。
Social Initiativesが伝えていきたいのは心の灯りの深度
天野:ここまでお読みいただいて、なるほどと感じる方もいれば、まだわからないと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。心の灯りのゆるやかな循環に意味を見出しつつも、会社の取り組みとして、Social Initiativesが伝えていきたいこととは何なのでしょうか?
井出:常々、制作の現場で目にする、つくることへの思いやその根底にあるあたたかなものに触れ、たくさんの感動があります。強引に聞こえるかもしれませんが、Social Initiativesも同じようなものではないかと考えているんです。美しい物語を伝えたいわけではなくて、どんな思いがそこにあるのかを伝えたい。損得やロジックではないものに実は価値の源泉があって、心を震わせたり、凄まじいインパクトを与える秘密がある。そこを可視化したり、引き出したりしようとしているのがワコムのSocial Initiativesだと考えています。チームメンバーの物語を追体験することで、別のチームメンバーへ、パートナーやコミュニティーへ、心の灯りが連鎖していくのを感じています。取り組みを伝えていくことで、ワコムとしての、社会や未来への可能性を広げられたらと考えています。
会社の取り組みとして育てていくために
天野: これまで30以上の物語をWEBページで紹介してきましたが、チームメンバーの心の灯りのほんの一部です。取り組みに参加したいけれど、機会がないといった声もきかれます。会社の取り組みとして、より多くの方に関心をお寄せいただき、活動に参加してもらえるような機会作りが必要ではないでしょうか?
井出: そうですね。次のステップとして、より取り組みに参加しやすくなるようなきっかけ作りが必要かもしれません。僕自身、Social Initiativesに限らず、チームメンバーの思いや声に、できるだけ耳を傾けたいと思っています。部署や担当業務に関わらず、こういうアイデアがあるんだけれど、ということがあれば、僕にでも天野さんにでも、ぜひ声をかけてほしいです。
次の5年へ向けて、直線ではたどり着けない大きな循環を目指していく
天野:Social initiativesは説明が必要なことも多いのですが、伝えた先の一人からまた一人へと伝わっていく時に大きな熱量があるのを感じています。担当としては、何年かかるかわかりませんが、長く続く取り組みに育てたいと思っています。井出さんは、次の5年へ向けて、どのような思いをお持ちですか?
井出: ライフロング・インクという長い時間軸で、渦がどうなっていくか、身を投じて、みなさんと日常を生きていきたいと思っています。Social Initiativesの成功は、数字やKPIで簡単に測れるものではありません。社会は常に変化していて、成功に対する価値観や解釈も変わっていく中、大切なのは、社会の課題が複雑に絡み合っていることを理解し、多様な考え方や方法で取り組んでいくことだと思います。これまでも、これからも、チームメンバー一人ひとりの思いを大切に、ただひたすらに取り組みを積み重ねていきます。その小さな渦の連鎖から、直線ではたどり着けない大きな循環を目指すことができるのではないかと考えています。恐ろしさや未知をも含んだ渦を自分たちで作りだし、そこに飲み込まれてしまうかもしれない矛盾をもはらみながら、意味のある時間を創り出していきたいです。