Pride of Wacom - ワコムの矜持

それぞれの理想を求めて:
すべてを諦めない「最高のバランス」

Wacom Movink 13:有機ELディスプレイを採用した初のワコム製品

「プロクリエイターに最高のペン体験を届けたい」という想いから始まったWacom Movink 13の開発では、企画段階から有機ELディスプレイの採用が検討された。軽くて薄いディスプレイを実現できるこの技術は、「どこへでも持ち運べて、描きたい時にいつでも描ける」という製品コンセプト実現に欠かすことができないもの。一方で、新たなディスプレイを採用したことで、ワコム独自のデジタルデバイス技術であるEMR(Electro-magnetic Resonance:電磁誘導方式)との間で予期せぬ不具合が発生することになった。

EMRとは、ワコムが特許を取得したディスプレイ関連の技術のこと。デバイスの液晶ディスプレイ画面の裏側にあるセンサー層と強化ガラス層で構成される。センサーは、垂直・水平交互の格子状に配置され、それぞれのセンサーは正確に組み込まれており、微弱な電磁信号を発する。これらの信号を組み合わせると、デバイスのガラス面から約5 mm の範囲に磁場が発生する。EMRの利点は、ペンに電源を一切必要とせずに、液晶ディスプレイ画面および保護ガラスを通過してペンに電力が供給されることにある。このため、バッテリーの消耗や電源ケーブルのねじれ、破損が生じない。EMRは、ワコムの品質および信頼性に優れた技術を組み合わせて実現しており、業界最高の精度と耐久性を誇る。このような特性から、EMRは現在のワコムのデジタルデバイスを支える基幹技術のひとつとなっている。

初めての課題と真摯に向き合い、解決の糸口を探る

プロクリエイター向け製品であるWacom Movink 13でも、もちろんEMRが重要な役割を担ったが、開発当初、複数の有機ELディスプレイサンプルでテストしたところ、EMRセンサーとの間で同期が取れないことが判明した。ディスプレイとEMRの間で生じるノイズ対策を統括したエンジニア ・小谷佳宏は「これはワコムとして初めて有機ELディスプレイを採用した製品。新しい技術を採用したことで初めて発生した課題だった」と語る。

「EMRセンサーと有機ELディスプレイの間で相互干渉が発生していることはわかりましたが、人間の眼で見ているだけでは実際に何が起こっているのか、そのメカニズムを特定するのが難しかった。そこでディスプレイとペンとの間に起きている現象を高速カメラで撮影し、どの瞬間に異常が発生しているのかを精緻に見極めていきました。その結果を受けて、ワコム社内のディスプレイエンジニアたちと膝を突き合わせて議論し、EMR側の課題特定に至りました」

クリエイターの期待に応えるディスプレイを届ける

Wacom Movinkのディスプレイ設計および開発の中心にいたエンジニア ・山口英将も、有機ELディスプレイとEMRの間で生じる課題に頭を悩ませていた。従来の液晶ディスプレイとは駆動方式が異なるため、ディスプレイの画質にも影響が出ていたのだ。クリエイターはワコムのディスプレイに対し、単純に美しくヴィヴィッドな発色だけでは満足せず、「狙った線、狙った色が忠実に再現される」という高い基準を求めている。クリエイターが描いたものが、その意図のままに再現されること。それは一見すると当たり前のようでいて、実は全く当たり前ではなく、エンジニアの弛まぬ努力がもたらす結果だ。

「実際、画質の不具合に関しては、言葉で説明しようとしても完全に伝え切ることが難しいものです。そこで、海外のディスプレイベンダーとワークショップを開催し、実際の挙動を確認し合いながら、起こっている現象を共有し、技術的なメカニズムを特定して対策を講じていきました。製品開発においては初めてに近い形でのワークショップを経て、画質や表示の異常もなく、EMRテクノロジーのパフォーマンスも最大限に発揮されるバランスを備えた、私たちが求めるディスプレイの実現までたどり着きました」

最高のペン体験を届けるためのトライ&エラー

有機ELディスプレイの採用はワコムとしても初めての試みであったため、EMRの調整も未知の領域だった。ペンの検出部分やEMRの駆動部分のソフトウェアプログラムを担った 川又なおこは、開発当時の試行錯誤を語るが、その表情は実に穏やかだ。

「ディスプレイとペンとの相互干渉があり、EMRの性能がどの程度発揮されるのか。また、ディスプレイ側に不具合が出た際にも、EMR側でも新しい駆動方法を試したり、出力を低下させたりと、考えうる限りの選択肢を考えて試しました。ディスプレイのチームと綿密に話し合いながら細かく調整を加え、最終的にはペンごとに細かく調整し、ユースケースに合わせて解決していったという形です」

ディスプレイ側を調整したら、それに合わせてEMRもチューニングし、EMRをチューニングしたら、ディスプレイ側を調整する。トライ&エラーを繰り返しながらも最後まで走り切れたのは、「届けるべきは最高のペン体験であり、どんな環境でも狙った線を再現性高く描くことができる」というゴールを決して見失わなかったから。そう言えるのではないだろうか。

妥協のない「最高のバランス」、その先に見出した最適解

Wacom Movink 13 では、デジタルペンでの操作だけでなく、拡大や縮小、移動、回転など直感的なタッチ操作も可能だ。タッチテクノロジーに関しても、有機ELディスプレイと組み合わせるのは初めてのこと。ここでも数えきれないチャレンジがあった。

ディスプレイとEMRとタッチ。それぞれのベストを追い求めながら、相互に干渉しあうノイズをゼロに近づけるという気の遠くなるようなミッション。ある意味ではプロフェッショナル同士の「ハイレベルな競演」 と言い換えることもできるだろう。ディスプレイとしての理想、ペンとしての理想、タッチの理想。全てを高い次元でバランスさせるにはどうするか。Wacom Movink 13 の開発では、ワコム内の知識や経験だけでは解決できない課題が続出した。そのため、これまでの製品開発以上に密に連携を取ることを意識し、毎日のようにコミュニケーションを積み重ねていった。

「エンジニアにとって『挑戦とは歓迎すべきもの』。ペンのパフォーマンスを落とすことでディスプレイの不具合を解消することは、正直言ってどんなベンダーでもできることでしょう。しかしながら、それをしてしまっては、ワコムがワコムでなくなってしまう。ワコムが届けるのは『プロフェッショナルクリエイターにとっての最高のペン体験』であるべきで、それこそがワコムと私自身の存在価値であると考えています(小谷)」

理想のバランスを求めて:エンジニアたちの終わりなき旅路

Wacom Movink 13では、ディスプレイを極限まで薄くすることで、クリエイターは視差をほとんど感じないレベルの仕上がりを実現した。「ディスプレイが薄くなり、ベゼルが狭くなるほど、EMRのパフォーマンスは発揮しにくくなる傾向にあります。それでも、この製品では狙ったポイントにペンを走らせることができ、狙った線が出てくることを実現しています。ぜひ体感してもらいたいですね(川又)」「この薄さ、この軽さをぜひ味わってほしい。どこでもクリエイティブワークが楽しめる製品に仕上がっています(山口)」という言葉からは、この製品に対する確かな自信が感じられる。ワコムとして、そして、エンジニアとして、これから目指す先には何が見えているのか。

「Wacom Movink 13でもベゼルを狭めていますが、世の中のタブレットはより一層小さくなる傾向にあります。ペンのパフォーマンスを下げることなく、どこまでベゼルを狭くできるか。限界までチャレンジしていきたいですね。ディスプレイがさらに大型化し、解像度・周波数が高まってくると、技術特性上、ノイズが発生しやすくなるため、EMRのチューニングもさらに難しくなります。どんなディスプレイを取り扱うことになっても、EMRを知り尽くし、その強みを使いこなすことで最高のパフォーマンスを引き出したい。他社には絶対に負けたくないですね(小谷)」

「有機ELディスプレイを採用した軽くて薄い製品を作りたいという想いは長く温めてきたものだったので、Wacom Movink 13の開発に携われたことは感慨深いものがありました。非常に軽くて、プロフェッショナルなクリエイターに喜んでもらえるものができましたが、画質、描いた時の感覚、表面処理など、ここから一段、二段と改善できることがあります。ワコムの誇りであるペンの技術を最高の状態を保ちながら、ディスプレイの性能もさらに向上させていきたいですね(山口)」

「私たちが届けたいのは最高のペンの描き心地です。使っていることがわからないくらいの自然さで、いつでもクリエイターに寄り添っている。そんなペンを作りたいですね(川又)」 プロクリエイターの創作を支えるWacom Movink 13。創造性あふれる人々が求める最高のペン体験を届ける旅は、これからも果てしなく続いていく。

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