クリエイティブ・ディレクターに訊く(後編)

「2つの問いかけ」から編まれる「音楽と言葉から成る物語」。

その紡ぎ手の想いに耳を傾ける。

クリエイティブ・ディレクターに訊く(後編)

「2つの問いかけ」から編まれる「音楽と言葉から成る物語」。

その紡ぎ手の想いに耳を傾ける。

感性の共鳴が生み出す東京会場の世界観

世界5都市をつないで開催される今年のコネクテッド・インク2022。東京での演出を担うのはクリエイティブ・ディレクターである板垣崇志(いたがき・たかし)氏と福田基(ふくだ・はじめ)氏。主催者であるワコム代表取締役社長・井出信孝(いで・のぶたか)が投げかける2つの問いかけ - 「人間は、その起源以来、本当に進化してきているのだろうか?」と「ワコムの道具は、本当に人間の創造性に寄与していると言えるだろうか?」 - を起点に、各々が持つ創造性を存分に発揮する。口を揃えて「奇跡的とも言えるような出会い」と語る3人。職務や社会的意義などを超えて「命を与えられたものとして、何を成し遂げなければいけないか?」といった自分自身の存在意義という根源的な問いにおいて、共通するものを感じているという。その3人がどのようにしてコネクテッド・インク2022の世界観を形作っていくのか。後編では、音楽や舞台演出を含めた総合的なクリエイティブを手掛ける福田氏の想いを紐解いていく。

コネクテッド・インクの熱量を最大化するために

福田氏はドイツと日本に拠点を持つ作曲家でありピアニストだ。音を駆使した空間演出を得意とし、その場でしか味わえない体験を追求する「音環境デザイナー」としても広く活躍する。板垣氏が結んだ言葉を咀嚼し、音楽や舞台演出などのクリエイティブへと昇華させるのは福田氏の役割だ。板垣氏の言葉を借りると、それは「音楽と言葉から成るひとつの物語」だという。この物語がコネクテッド・インク2022の全編を通じて描かれていくイメージだ。福田氏は自身の創作についてこう語る。

「コネクテッド・インク2022の熱量を最大限に高めていく。これが私に与えられた役割だと考えています。コネクテッド・インク2022にご参加いただくお客様やトークゲスト、パフォーマーに熱狂してもらい、この特別な空間で交差する思考や感情の伝導率を思い切り引っ張り上げたいですね。

板垣さんから頂いた言葉を受けて『どのような形で表現するとその本質が最も伝わるのか』を考えていきます。私が得意とする音楽はもちろん、コンテンポラリーダンスに仕立てることもあれば、ニュースペーパーとして配布することもあるかもしれません。表現手段は実にさまざまです。

板垣さんがメッセージを磨き、私が演出をして、井出さんが届ける。このように私たち3人にはそれぞれの得意領域があります。役割分担をした方が効率的に物事は進みますが、私はお二人の領域にあえて質問や意見を投げかけています。それは一歩間違うと相手を不愉快にさせてしまうかもしれませんが、思考の解像度を上げるためには必要なプロセスです。板垣さんと井出さんのメッセージは既に洗練されていますが、敢えてその理念や思考に切り込むことによってコネクテッド・インク 2022で成し遂げたいイメージを深い部分で共有することができました。チーム全員が解像度の高い言葉を交すことで、描いている世界を的確に表現し、他者と共有することができる。それはもう『愛』ですよね。お互いを信頼し、提案し合えるこの澄み切った関係を、最後まで続けていければいいですね」

3人の関係について板垣氏は「3つの脳がつながっているイメージ」と評する。自分の脳では見えないものが、あとの2人には見えている。自分が処理した情報を別の人の脳に直接渡し、次の処理を行う。3つの脳が共鳴し、他者の脳を借りて自分の世界が広がっていくのは、名状し難い感覚なのだろうと想像する。

「非属の才能」の共振を生み出す「一編の物語」

この3人に共通するのは、既存の価値観に対して疑問を持ち、先入観に囚われない新しい発想で、自分の信じるところを信じ、他者と協調しながらも本質的には黙々とひとり歩みを進めることを恐れない、謂(い)わば「非属の才能」ではないだろうか。人や社会に合わせる難しさを感じたなかで、自分が本当に大切にするものに気づいたという経験。そうした経験を持つ3人がお互いの領分を尊重しつつ、それぞれがアイデアを加えて一段上へと高めていく。領域侵犯を気にすることなく意見を交わせるのは、お互いに対する信頼と尊敬があるからこそ。このチームがつくる「物語」という創作に出会えるのは11月。その時が楽しみでならない。(前編はこちら)

editor / text _ 川上主税(Chikara Kawakami)